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 恐らくそれは偶然目が合ったから、もしくはお互いにとって都合がよかったから。二次会の中盤、私と佐久早は居酒屋を抜け出した。確認もとらずホテルへ向かう。私達がセックスを求めているのは明らかだった。部屋の扉を閉めた瞬間、佐久早君は私にキスをする。そのままベッドになだれ込み、私達は体を重ねた。二度目やピロートークはなく、佐久早君は隣で安らかな寝顔を見せていた。その様子が可愛らしく、私は布団をかけてあげた。

 翌朝目覚めたのは私の方が早かった。隣に佐久早君が眠っていることを確認し、あてもなくスマートフォンを弄る。ちょうど男友達からダイレクトメッセージが来ていた。返信のチャットボックスを開くと、隣で恨みがましい声がする。

「誰だよ、その男」

 思わず声が出そうになるのを抑えて、私は佐久早君の方を見た。

「おはよう。なんか、付き合ってるみたいだね」

 一つ言うのであれば、私は冗談として口にしたのだ。もしかしたら佐久早君の発言も冗談なのかもしれない。何と言ったって、私達は一晩寝ただけの仲なのだから。しかし佐久早君は真剣だった。

「セックスしたんだから付き合ってるだろ」

 私は言葉を失う。そういう価値観の人には初めて出会った。最中に好きだとか付き合おうとか言われたわけではない。佐久早君はきまり悪そうにそっぽを向いた。

「俺は付き合いたいと思うような奴以外抱かない」

 私は佐久早君を誤解していた。これほど曲がった思考の持ち主だと知らずに一晩を共にしてしまったのだ。ならば責任をとるほかないだろう。

「じゃあ付き合おうか」

 そう言うと、佐久早君の瞳は感動したように丸くなっていた。