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「セックスしてほしい」

 何の心変わりかはわからないが、佐久早に誘われた。意外ではあるものの悪くはない。

「いいよ」

 素直に了承すると、佐久早は眉を吊り上げた。私は佐久早の地雷を踏んでしまったことを知る。佐久早と知り合って長いが、佐久早は唐突に怒り出すことが多いのだ。それも何故か私に対して。他の人にはおとなしくしている姿を見ていると不思議になってくるものである。

「何で付き合ってない男とセックスできるんだよ」

 どうやら私は貞操観念の緩さを指摘されているらしかった。ここで「佐久早だからだよ」と言えば佐久早は喜ぶのだろうけど、そう簡単に蜜を与えたくない。私は佐久早に向き直る。

「佐久早は親しい友達でしょ」
「でも彼氏じゃない」

 佐久早は自分で言っておきながら苦い表情をした。そうやって自分を苦しめることに何の意味があるのだろうか。

「折角誘ってくれたからいいって言ったんじゃん。佐久早は私としたくないの?」

 佐久早を見上げれば、佐久早は小さな声で「したい」と言った。それを聞いて私は笑顔になる。したい男女が二人いる、それ以上の理由はないのだ。

 ならいいじゃん、と言おうとしたところで佐久早が視線を鋭くする。

「だからその前に付き合ってもらう」

 いつのまにか付き合う話になっている。セックスをするということに比べたら小さなことであるが、佐久早は流れで付き合うことを狙っていたのだろうか。潔癖な佐久早の価値観にため息をつき、私は佐久早に肩をもたれた。

「どっちでもいいよ」
「そこはこだわれ」

 文句は言いつつも、離す気はさらさらないようだ。佐久早は私の肩を掴み、自分の体に引き寄せた。