▼ ▲ ▼

 深夜の船は静かだ。時折波に揺られてベッドが傾く。私は時折落ちてしまいそうになるが、その度にエースに腕を伸ばされている。私達は二人共裸である。

「エースって最中で寝ちゃうのかと思ってた」

 暗闇に向かって話しかけると、エースは慌てたように顔を上げた。窓の外で水が跳ねる音が聞こえた。

「馬鹿! ありゃ飯食ってる時だけだ。好きな奴抱いてる時に寝るかよ」

 暫しの沈黙が訪れる。エースは勢いで言ったのだろうが、見過ごせない言葉があった。それはエースも感じているようで、気まずいような空気が漂ってくる。だがエースのことだ。男に二言はないと思っているのだろう。

「あれ、今告白した?」

 面白がるように突っ込むと、エースはベッドの上にうつ伏せになった。体がベッドに沈む勢いで、私の体が少し跳ねる。

「そもそも、おれァ順序踏んで抱きたかったんだ」

 本音とばかりに絞り出されたエースの言葉に、私は簡単な突っ込みを入れる。

「ヤってるじゃん」
「付き合ってからしたかったんだよ! 結局欲に負けちまったけどな!」

 今のエースは、自分を情けないと思っているのだろう。好きな異性とは順序を踏みたいと思っていたのに、性欲に負けて抱いてしまった。おかげで今はセフレにでもなりそうな空気である。しかし、エースは曖昧さを嫌うようだった。

「フるならフれよ」

 暗闇の中で、エースの視線がこちらを向くのがわかる。エースは今拗ねた子犬のような目をしているのだろう。

「付き合ってもいいよ」

 私が笑うと、「いいよって何だよ」と言いつつもエースは喜んでいるようだった。エースが恋愛に堅苦しいのは承知済みである。エースの熱い肌に触れながら、とんでもない男の胸に飛び込んでしまったものだと思った。