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※2022/8/16時点で単行本未収録の内容を含みます。

 ワノ国はお祭り騒ぎだ。国民が舞い上がるのに対し、カイドウ打倒を成し遂げた海賊達は冷静だった。無理もない。一時的な海賊同盟が終わり、また海で争うライバルに戻るのだ。航路を決める途中、ローが名前を指差した。

「麦わら屋、コイツを引き抜きてェ」

 名前は弾かれたように立ち上がる。まさか、あのことを言うのではあるまいな。しかしローは無慈悲にも関係性を口にした。

「何でだ?」
「おれの女にする」

 名前はたまらずローを物陰へと引っ張った。名前の腕力でローを引きずることは不可能だと思うが、ローは大人しく引かれている。名前の小声に合わせ、身を屈める配慮までした。

「今まで秘密の感じだったじゃん! そもそもルフィにセフレとかわかんないから!」

 名前が言いたいのは、二人の仲を公にするなということである。今まで同盟相手という仲でありながら、何度も体を重ねていたのだ。一応はライバルであるのだから周りに知られると立つ瀬がない。

「おれはセフレだと思ったことはねェ」
「それにしてもせめて戦闘員にして〜!」

 さらりと本気であることをカミングアウトされたのも衝撃だが、ローは名前を「自分の女」という役割に置こうとしているのも衝撃だ。せめて役割を与えてほしい。

「お前ら仲良いんだな。でも名前はウチのクルーだ!」

 話す二人を見てルフィが笑った。その言葉を聞いてローも考えを改めたようだ。

「そうか。なら偉大なる航路を一周するまで待ってもらう」

 待っていてもらう。まるで、名前がローに恋焦がれているかのような。

「何で私がトラ男を好きみたいになってんの?」

 思わず口にすると、二人分の声が返ってきた。

「好きじゃねェのか?」

 名前の気持ちは、本人が気付いているかに関わらずわかりやすいのかもしれない。これ以上何も言えなくなり、名前は唇を噛んだ。