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「信じられない! 元カノ映画に誘う?」

 久しぶりに呼ばれたかと思えば、言われた言葉が映画に行こうだ。聖臣も多少気まずそうにはしているものの、神経を疑う。映画を観るのにわざわざ元恋人を誘う理由はないだろう。聖臣はじっとりとした視線を私へ向けた。

「二部作なんだから仕方ないだろ」
「古森でも誘えばいいじゃん!」

 確かに、聖臣と最後に観た映画は二部作だった。一部を観た時はその後別れるなど思いもしなかったのだ。なおも抵抗する私に、聖臣は言い放った。

「一部でボロクソ言ってたお前を納得させたい」

 そう言われてしまえば何も言えない。聖臣が良かったと言うのに対して、私は酷評していたのだ。中途半端を嫌う聖臣が私に納得させたいと言うならもう、付き合うしかないのだろう。
 私は一度だけという約束をし、本物の恋人同士のように連れ添って映画館へ行った。だが聖臣は私の分までポップコーンを持ってくれなかったし、肘置きに置いた手を繋ぐこともしなかった。私は聖臣に半分意識を奪われたまま映画を鑑賞した。

「……よかったよ、映画。特にヒロインが冷静になってヨリを戻すシーン」

 映画が終わった後、私達は近くのカフェに入る。気まずい沈黙を破ったのは、そうしなければならないと思ったからだ。聖臣はコーヒーを飲み、どこか別の場所を見ながら言った。

「俺もそこがいいと思った」
「……聖臣から言ってよ」

 聖臣と長年付き合った勘が告げている。今私と聖臣の心は一つであると。ならば悪い役目を引き受けるのは、映画に誘った聖臣の方であるはずだ。聖臣は視線を上げ私を見据えた。

「もう一回付き合ってくれ」

 私はしたり顔で聖臣を見、口角を上げる。

「仕方ないから受け入れてあげる」

 その瞬間、二人の空気が緩んだ気がした。今になって思えば、私達の別れは一時の感情に突き動かされたものだったのだ。聖臣がどこまで想定していたのかわからないが、結果オーライというものだろう。聖臣は目を細め笑った。