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 きっかけはちょっとした好奇心だった。彼氏の服を彼女が着る、というのは言わずと知れたシチュエーションである。それが全国にも出場しているバレー部のユニフォームだったら、さらに特別感が増すのではないだろうか。この時の私は佐久早が喜ぶとばかり思っていた。

「彼ユニしてみたい」

 自然と上目遣いになり、ぶりっこのようになってしまう。だがそれでいいのだ。今の私は「可愛い」をアピールしたいのだから。

「ダメだ。これは井闥山のバレー部に認められた奴しか着れない。そう簡単に着られるものじゃないんだよ」

 佐久早の答えは真剣で、頑なだった。私は思わず肩を落とす。何もしていないのに叱られた気分だ。まあ、帰宅部の私には部活に全力を捧げている人の気持ちなどわからないのだけど。

「代わりにお前の体操着でも着とけ」

 佐久早の一言に顔を上げる。

「何で体操着?」

 体操着など体育の時いつも着ている。それも私のものとなれば何も特別感はないはずだ。佐久早は少し照れたように唇を尖らせた。

「体操着が一番エロいだろ」
「体育の時どういう目で見てたわけ!?」
「いいから、着ろ」

 生憎私の鞄の中には今日使った体操着があった。今日も体操着を着て運動していたばかりなのだ。それを佐久早は興奮して見ていたのだろうか。

 佐久早を興奮させられて嬉しいような、ニッチな性癖に驚くような複雑な気持ちになる。とはいえ私は佐久早が喜ぶと知ったら着ずにはいられないのだろう。汗で湿っている体操着を出すと、佐久早が目を見開いた。