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 白鳥沢学園にとっての夏休みは文化祭準備の修羅場である。本日も夕方まで仕事をしていた文化祭実行委員会のみんなのために、アイスを買いに行った。というのも、文化祭実行委員会での予算が余っていたのである。適当に買い込んで戻れば半数以上の人が帰宅しており、アイスは食べる人を失ってしまった。途方に暮れる私に「バレー部にでも差し入れしてくれば?」と会の仲間が指差す。見れば、体育館は居残り練習をする生徒で明るくなっていた。文化祭実行委員会の予算で買ったものを無駄にしても仕方ない。そうして私は、バレー部にお裾分けに行ったのである。

「俺のためではなかったのか?」

 現在、何故か私は牛島君に詰められていた。無事アイスを溶かさずに皆の口に入れてもらうところまでは完了したのだ。ところが、他の部員との会話で予算が余ったから、という話をしてしまい、牛島君がそれに引っかかった形である。

「う、牛島君のためでもあるけど」

 要するに牛島君は、私が牛島君のためにアイスを買ってきたと思っているのだ。別にどちらでもアイスが食べられればいいのではないかと思うのだけど、牛島君にとっては大事らしい。

「ならいい。お前は一番に俺のことを考えろ」

 酷く独善的なことを言っているのに、甘えていると思ってしまうのは何故だろうか。牛島君は誰に対してもこうした制圧的な態度をとるわけではない。私だからこそ好きにしているのだと思うと、胸の奥が擽ったくなる。

 ひとまず、私の買ってきたアイスを舐める姿は可愛い。命令のようなことを言われていることも気にせずに、私は現実逃避することにした。