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 予鈴が鳴り、それぞれが自分の席へと戻る。クラスメイトとの談笑を終えた私は、小声で呟いた。

「佐藤君私のこと好きなのかな」

 その一言が聞こえていたのだろう。前の席の佐久早が、顰めっ面で振り返った。一見恋愛ごとに興味がなさそうだが、クラス内でのことなので惹かれたのかもしれない。佐久早は何で、とでも言いたげな表情をしている。

「だって雑誌に小さな変化に気付くのは好かれてるからって書いてあった」

 先程まで私と話していたグループの中で唯一、佐藤君は私の変化に気付いたのだ。それは自爪に見える薄ピンクのネイルをしているだけという小さなものであったが、この場合小さければ小さいほど信憑性が増す。佐久早を見れば、佐久早は呆れたとばかりに眉を下げていた。

「俺はお前が前髪切っただけで気付くしまつ毛の上げ具合にも気付く」

 私の頭が暫し動きを止める。佐久早は今、何に張り合っているのだろうか。この文脈ではまるで、佐久早が私に気があるようだ。

「つまり佐久早は私のこと好きってこと……?」
「違う! 俺でも気付くんだからそいつも別に好きじゃないってことだ!」

 私は一瞬佐久早の意見に呑まれたが、少ししてからやはり好きなのではないかと思った。佐久早は好意に無自覚でいるだけなのだ。それを指摘しようと思ったが本鈴が鳴ったので私は大人しく教科書を出した。多分急ぎではないだろう。などと、余裕ぶっていられないかもしれないが。少なくとも佐久早の想いは、僅かな期間の間に変動するものでもなさそうだ。私は急に恥ずかしくなってきた。