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 治に夏祭りに誘われた。突然のことだったのにしっかり準備をしてきた私は浮き足立っていたのだろう。治は雰囲気任せに告白することも手を繋ぐこともなかったが、私との祭りを楽しんでいるようだった。嬉しそうな顔で食べ物を頬張る治を見ているとこちらまで嬉しくなってしまう。その笑顔の何割かは、私が理由だったりするのだろうか。

 祭りも終わりに近付いた頃、人の少なくなった通りを私達は歩いていた。ちらほら閉まる屋台があり、少しの寂しさを感じさせる。今ならノスタルジックに身を任せて、治に聞けそうな気がした。

「何で私を誘ってくれたの?」

 私は治を見上げる。期待していないと言えば嘘になる。だって、祭りに異性を誘うとはそういうことだろう。

 治は私に視線を合わせず、屋台の方に目を走らせていた。

「祭りの終わり頃って女の子やと余りの食べ物貰えるやん」

 私は目を白黒させ、言葉を失う。私が恋だと思っていたものは、ただの食欲だったのだ。だから先程からやたらと閉まりかけの屋台をチェックしているのか。

「私のときめき返せ! 何で私なの!」

 喚く私に、治は冷静に返す。

「だって苗字かわええやん」

 それは可愛い女の子を連れて行った方がより貰える確率が高くなるということなのだろう。この際誘いやすい気安さがあるということは別にして、治は私を可愛いと思っているのだ。私を連れて行けば、屋台のおじさんがおまけをしてくれると。

「本当にときめかせてどうする」

 呟いた私の手を治が握った。

「あそこの屋台閉まりかけや。行くぞ」

 今更になって手を握るのがずるいとか、感じるところは色々ある。だけど私はこのお祭りの雰囲気に呑まれていた。今日くらい治に強引にされてもいいか、なんてらしくもないことを考えている。