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「それじゃあ今日はありがとね」

 私は部屋から出ようとする。部屋というのは佐久早の部屋のことだ。私は今服を着たところで、佐久早は下半身だけ服を身に付けていた。大きな体の上にある目が、じろりとこちらを睨む。

「お前……人の初めてを奪っておいてそのまま帰る気か?」

 その顔は恨みがましい。佐久早はこのセックスが気に入らなかったのだろうか。そもそも、佐久早がしようと言ったからしたのだけど。

「だって佐久早が誘ってきたんじゃん」

 佐久早は鋭い視線を向ける。私は思わずドアノブから手を離した。

「誘ってきたのはお前だろ。俺は付き合ってる女としかしたくない」

 私は全く誘ったつもりはない。何故か私が責められるような立場になっているが、話を持ちかけてきたのは佐久早なのだ。そして恐らく、私を好いているのも。

「でもしたよね?」

 私が言い返すようにすると、佐久早は言い訳するようにそっぽを向いた。

「我慢できなかっただけだ」

 要するに、自分のポリシーを曲げてしまうくらい私が好きだということだ。ここまで言わせてしまったのは私だし、流石に佐久早が可哀想になってきた。

「じゃあ付き合おうか」

 言ってからまたドアノブに手をかけると、背後から佐久早の声が飛んでくる。

「待て。キスしてから帰れ」

 そう言う佐久早はベッドから一歩も動かず、私がするのを待っている。お前はお姫様か、と思いつつ私は仕方なしにちかよった。目を閉じてキスを待つ佐久早はまあ、可愛くもある。