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 魔が刺した、というやつだ。夏に泊まりがけとなれば特別なことの一つでもしたくなる。佐久早は部活の合宿なのに対し私は文化祭実行委員会での合宿だったが、重なる時間は多々あった。古森と共謀し、佐久早に悪戯――あるいはドッキリを仕掛けようとしたのだ。

 しかし、呆気なくそれは佐久早本人にバレてしまった。気配を消すことの上手さに関して佐久早の右に出る者はいないだろう。「あれ、聞かれちった」と古森が食堂を出て行き、私は佐久早とテーブルに残される。

「やめろ。嫌いになるぞ」

 佐久早の言葉は脅しだった。脅しだが、そもそもの前提が私の予想外なのである。

「佐久早って私のこと好きだったの?」

 私が言うと佐久早は黙り込んでしまった。佐久早が私を責めていたはずが形成逆転だ。私は佐久早に合わせて席から立ち上がった。

「佐久早に嫌われてるかどうかを私が気にすると思ってたの?」

 佐久早の脅しが成立するには、私が佐久早のことを好きでいる必要がある。佐久早は私に好かれていると思っているのだ。急にいじらしくなって、私は佐久早をいじめにかかる。てっきり、「うるさい」と邪険にされると思っていた。しかし予想に反し、佐久早は焦ったいような瞳をこちらへ向けた。

「お前は好きじゃねぇのかよ……」

 私より数十センチ高い、一九〇近い巨人が照れている。そのことに何故か私も照れてしまい、次の言葉をなくした。ドッキリにかけられたのは私の方だったのだ。