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「先輩、試合勝ちました」

 目の前に立ち塞がる後輩を見て、私は困惑しつつも頷いた。

「あ、うん」

 佐久早君は睨むように私の反応を目に焼き付け、踵を返す。彼が部活での勝利を事細かに――たとえ地区予選の結果でも誇らしげに――報告してくるようになったのは、去年私が彼を褒めてからだった。

「バレー強いの格好いいね」

 お世辞ではなく本心だった。部活に青春を捧げられる人は凄いし、それで結果を残せているなら尊敬する。私としては少し喜んでくれればそれでよかったのだが、私のこの一言は予想以上に佐久早君に刺さったらしかった。毎度報告されるたびに、私はどうしたらいいのかわからなくなる。しかも勝利の規模は段々上がっていっているのだから、私の反応も変えていかなくてはいけない。一つ言えるのは、佐久早君は私に好意があってやっているのだろうということだ。私は彼に何を返せるだろうか。悩んだまま、遂にその日が来てしまった。

「全国優勝しました」

 一つ言うなら、知っているだった。バレー部の結果を書いた垂れ幕は堂々と校舎にぶら下がっている。佐久早君が私に褒められたくて報告をしているなら、私も最上級で返さなくてはならない。

「あの……佐久早君は私のことが好きで言ってるんだよね」
「……はい」

 自分で言っておきながら照れが走る。それに負けず、私は佐久早君を見上げた。

「なら私も、そんなに頑張ってくれる佐久早君にご褒美をあげないといけないのかなって」

 佐久早君の目が猫のように見開かれる。好きも付き合ってもないまま、私達は恋愛の空気へと移行していた。

「ハグと頬にキス、どっちがいい?」

 私が言うと、佐久早君は鋭い表情を見せた。

「両方貰います、全国優勝したので」

 やはりそこは強調するらしい。私は笑って佐久早君に近付いた。この先はきっと照れるだろうけれど、それもまたご愛嬌だ。