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※古森にモブ彼女あり

「お前本当に俺と好みが正反対だよな」

 突然口を開いた佐久早に、古森は呆れた様子で視線をやる。

「それ俺の彼女見た後で言うか? 普通」

 佐久早の視線の先には古森の彼女がいる。好みが正反対、ということは佐久早は彼女をあまり良いと思わなかったのだろう。正直なのは佐久早の長所だが、身内相手だと些か配慮に欠ける。

「じゃあ俺は聖臣が好きな子を好きじゃないのかもな」

 仕返しのように古森が言うと、わかりやすく佐久早の肩が跳ねた。人の彼女にとやかく言うくせに、自分の恋愛事情に首を突っ込まれるのは好きではないのだ。

「苗字さんだろ? いた」

 以前佐久早からは相談を受けている。都合よく、苗字は体育館から見える場所にいた。佐久早は今頃居心地の悪い思いをしていることだろう。古森の彼女を好みではないと言った罰である。

「結構好みだわ……」

 古森が呟くと、すかさず隣から厳しい声が飛んでくる。

「おい、彼女がいるんだろ」

 彼女がいようが可愛い子には可愛いと思うのだ。古森は急に苗字に興味が湧いた。半分は佐久早が慌てる姿への興味であるが。

「苗字さんは俺と佐久早どっちがタイプだろうな。聞いてくる?」

 古森は半笑いで佐久早の顔を見る。しかし佐久早は真剣な、それでいて照れたような顔で斜め前に視線を落としていた。てっきり怒るだろうと思っていた古森は肩透かしを食らった気になる。

「……聞いてきて」

 佐久早が中途半端を嫌う性格なのは知っている。だがここまで本気だったのだと、古森は認識を改めた。