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「お前に夢はないのか」
「夢?」

 突然放たれた言葉に私は顔を上げる。何と言っても、話しかけてきたのはローだ。夢などという言葉には一番遠い。

「麦わらの一味はみんなあるだろ」

 確かに、ルフィは海賊王、ゾロは世界一の剣豪を目指している。私はといえばそういった野望は何もない。

「あー……お嫁さん?」

 ツッコミを期待してとぼけてみたのだが、ローは冷静だった。鋭い目つきの元、現実的な意見を述べる。

「指名手配されてる海賊が一般人と結婚しようなんざ無理な話だ。知ってる海賊同士で結婚するしかほぼ道はねェわけだが」

 ローだって私がその場凌ぎで言ったことはわかっているだろうに、随分と深掘りするものだ。私が何か言おうとした時、遮るようにローが口を開いた。

「ゾロ屋は」
「え!? 何急に……女心疎そうだからなぁ」

 私が勝手に上から目線で言うのは憚られるが、現実的にゾロのお嫁さんになりたいとは思わない。ゾロはあくまで仲間だ。

「黒足屋は」
「優しいけど私に釣り合わないかも」
「鼻屋は」
「友達かな?」
「トニー屋とロボ屋とホネ屋は」
「まとめて!? まあ全員人間とは言い難いから難しい!」

 このまま全員挙げるつもりだろうか。残り一人になり、ローはより真剣な顔つきになった。

「麦わら屋は」

 まるでルフィと私に何かあると言いたいかのような。私は一呼吸置いてから冷静に答える。

「ルフィは幼馴染だからそういう目で見れないよ」

 ローは何故か勝ち誇った顔をしていた。果たして何に勝った気でいるのだろうか。ローの声に弾みがつく。

「じゃあ残るは一人だな」

 うちの海賊団の男クルーはもういない。「……サニー?」私が言うと、ローは憤慨してみせた。

「何でだ! 同盟がいるだろうが!」
「同盟は友達じゃないって言ったのローじゃん!」

 ローは一体どうしたいのだろう。同盟は友達ではない、と言っておきながら私の嫁ぎ先に立候補している。結婚相手になるならそれはもう私的な関係だと思うのだけど、あくまでローはシニカルを貫くらしい。格好つけているようでいて煮え切らないその態度が、妙に気にかかった。