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 彼女の家のベッドにて、重い瞼を開けた。昨日のことは覚えている。眠る寸前まで同じ悩みを抱えていたものだ。彼女を抱いてしまったことについて、どう言い訳しようかと。

 僕に考える隙を与えず、彼女が目を覚ました。僕が大衆映画らしくストレートに告白し、彼女と結ばれるのはどうも似合わないように思える。今更僕がそんなこと、できないのだ。

「……昨日の朝ご飯は?」
「パンだけど」

 寝起き早々尋ねた僕に、間髪入れず彼女が答える。昨日の朝食という絶妙に薄れがちな記憶を聞いているのに大したものだ。この際問答の中身に意味はなく、ただ彼女に質問ができればよかったのだけど。

「ならいい。これは体を使った捜査だ」

 僕が開き直って背を向けると、呆れたような彼女の声が飛んでくる。

「私の朝ご飯なんか聞いてどうするの」
「健康調査だ」

 だいぶ苦しい言い訳である。誰かの健康を調べにハニートラップをしたことはない。だが僕が彼女から聞き出したいことなどそうない。大体は知っているのだから。

「私の健康が何で安室さんに関係あるの?」

 急に喧しく思えて、僕は会話を終わらせるように叫ぶ。

「君が健やかでいることは僕にとって大事なんだ!」

 さあ、納得しろ。そして僕から付き合うだの付き合わないだのという話をさせるな。そろりと背後を窺うと、彼女がときめいたような顔で僕を見ていた。口説いたつもりはないのに、勝手に照れる彼女にまた感情を募らせた。