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「送って行く」

 ブラックジャッカルの関係者の飲み会の後、佐久早さんは私と同じ方角へ向かった。明日予定がある私と二次会には出たくない佐久早さんの帰りが重なっただけなのだが、周りはそう思ってくれないだろう。

「すみません。きっと周りには持ち帰ったと思われてしまいましたね」

 佐久早さんは振り向くことなく歩いていた。恐らく元から歩くのが速いのだろう。私に合わせてくれているとは感じるものの、それでも歩調は速かった。

「俺は付き合ってない女をいきなり持ち帰ったりしない。宮じゃないんだし」

 名前を出されて宮選手のことを思い出す。確かに彼は、佐久早さんがイメージする通りの人だ。

「そういえば、この前は宮選手に送って行ってもらいました」

 私が言ったのはふと思い出したからだった。しかしそれがいけなかったのだろう。佐久早さんは後ろを振り返り、眉を上げてみせた。

「……ヤったのか?」
「まあ、はい」

 このタイミングで送ってもらったと言うなどしたと言っているようなものだ。私は自分の軽率さを反省した。佐久早さんもチームメイトの性事情を聞かされて困っていることだろう。佐久早さんと視線を合わせられずにいると、彼は突然私の手首を掴んだ。

「行き先変更だ。俺の家に行く」

 この話の流れで行けば、その先に何があるかは明らかである。

「何でですか!? 持ち帰らないんじゃ」

 私の言葉を遮るように佐久早さんが私を射抜く。

「宮とヤったんだろ」

 その視線は責めているようで、私は佐久早さんの彼女でも何でもないのに後ろめたい気持ちになった。佐久早さんにとって私は宮選手と張り合うための道具なのか、自分のものという認識なのか。どちらにせよこれからのことに緊張してしまうのは事実で、私は処女のような足取りで佐久早さんの後を追った。