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 昨晩は疲れて眠ってしまった。佐久早からの着信を確認したのは朝起きてからのことだ。佐久早から電話をするなど珍しいこともあるのだと思った。私達が電話する時と言えば、毎回私からかけていたのだ。

「お前暇なら電話出ろ」

 顔を合わせるなりそう言った佐久早に違和感を覚える。私が佐久早と電話したがるのはいつものことだが、佐久早が電話したがるなどおかしなこともあるものだ。

「佐久早って私のこと好きなの?」

 私の言葉を受けて、佐久早は案の定不思議そうな顔をした。

「は?」
「だって私が好きだから付き合ってもらったんじゃん」

 佐久早は私の告白を受け入れはしたが、別に好きで付き合ったわけではないだろう。付き合ったと言っても私の片思いであることは変わらない。だから好きなのかと聞かれて素っ頓狂な顔をするのだ。私の視線を受け、佐久早は考え込むように視線を斜め下へやった。言葉を一つずつ吟味するように、ぽつりぽつりと話し出す。

「確かに始まりはそうだけど付きあってりゃ好きになる」

 意外だった。佐久早がそのような情に流される人物だとは思っていなかったのだ。私は愛の告白をされているというのに、喜びよりも驚きが勝っていた。

「セックスとかしてたのは何だと思ってたんだよ」

 責めるような佐久早の目に、私は小首を傾げて答える。

「体目当て?」

 すると佐久早に肩を引き寄せられ、こめかみに拳を押しつけられた。手加減しているのだろうが、オーバーリアクションにならざるを得ない。何と言ったって佐久早から私に触れているのだ。

「痛い! 痛い痛い!」
「俺の苦労も知らないで……」

 佐久早はこめかみから手を離した後、気まずそうに肩に手を置く。私のこと自体は離さないのだなと、今になってときめいていた。