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 迅さんとボーダーからの帰り道を歩いていた。一緒になったのは偶然なのだが、迅さんはまるで仕組んでいたかのように話を進めた。恐らく未来視で視ていたのだろうと思った。

「おれと付き合った女の子、みんな疲れて自滅しちゃうんだよねえ。ほら、おれ未来視えるから」

 迅さんは得意げにゴーグルに触ってみせる。言い方は軽いのに、迅さんがそれを重く受け止めているだろうことが伝わってきた。どうしてそんな話を私にするのだろうと思った。だが勿論心当たりはある。私が迅さんを好きなことだ。告白はしていないのだけど、迅さんは私に好かれているのが当然のような口ぶりで話した。

「名前は潰れちゃう? 絶対に潰れないって誓える?」

 警戒区域の中は静かで、物音ひとつ聞こえてこない。知り合いの誰かが話しかけてきたらこの気まずい会話も終わるのに、と思いつつ私達はこの会話を避けられないのだろうとも思った。私が迅さんを、好きでいる限り。

「私は……」
「おれ、名前まで潰れちゃったら嫌だなぁ」

 迅さんは私と付き合おうとしてくれているのだろうか。今はそういった浮かれる気持ちにはなれなかった。迅さんは自分を責めるような口調だったのだ。軽薄さの裏に隠しもった仄暗い感情が見え隠れしていた。

「好きだって言ってよ」

 多分、迅さんは私のことを好ましく思っている。でなければ好きをリクエストしたりしないだろう。だが「付き合って」ではないのだ。それが私達の象徴である気がして、私は好きな人の要望にも応えられず俯いた。