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 土曜日の学食は部活動をする生徒と自習室を使う三年生しかいない。私も漏れなく後者で、今日は一日缶詰になる予定だった。昼ご飯を食べている現在も、先程新たに入れたばかりの知識が頭を巡る。このまま数字の虜になるかと思いきや、唐突に隣の椅子が引かれる。大きな体躯にウェーブのかかった黒髪、佐久早だった。

「勉強はどう」

 彼は前を見たまま尋ねた。土曜の学食は閑散としており、あまり固まって食べる人はいなかった。周りの人も私達のことを気にしている様子はなかった。

「あ……まあぼちぼち」

 私が言葉に詰まるのは、勉強に意識をとられているところに突然話しかけられたからだけではない。佐久早と私には、関係性を気まずくさせるだけの過去があるのだ。私が視線を佐久早からテーブルに下ろした時、佐久早は躊躇いもなくそれに触れた。

「俺のことフって受験勉強選んだんだから絶対受かれよ」
「ええ!?」

 佐久早は良くも悪くも物怖じしない人だが、恋愛というセンシティブなことにおいてここまで直接的に言う人だとは思わなかった。しかもその言いぶりはまるでプレッシャーをかけるかのようである。佐久早のことは悩んで決めただけに、彼の言葉は私に刺さる。佐久早は私の様子を見てふと笑った。

「嘘だよ。応援してる」

 それだけ言って佐久早は立ち上がってしまう。そのまま学食を出て行く様子を見ると、佐久早は私のためにわざわざ残っていたのではないかと思わされた。本当は余計勉強を頑張らなければいけないはずなのに、恋愛に逃げたくなるなどどうかしている。