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 オリーブオイルの効いたカプレーゼには赤ワインがよく合った。グラスの中の液体をくるりと回しながら、赤葦さんはテーブルの上の皿を見る。綺麗になくなった料理は、私達の逢瀬が佳境であることを示していた。

「恋愛小説を読んでいて思うんですが、女性は強引にされることを好む傾向があります」

 赤葦さんの声はひそやかで、それでいて私に奇妙な爪痕を残した。蛇のようにするすると、私の耳元に忍び寄る。

「貴女はどうですか?」

 視線を向けられ、私は一度言葉に詰まった。こういった時素直に答えられないのが私の悪いところだ。

「それを聞いてどうするの?」
「今後の参考にしようかと」

 そう語る赤葦さんは食えない瞳をしている。参考にする、というのが編集の仕事に対してなのか自分の恋愛に対してなのかわかりやしない。私は白旗を上げることにした。

「あんまり好きじゃないかも」

 そう思うのは俺様系の雰囲気の男性より穏やかな空気を纏った男性の方が好きだからである。ちょうど目の前の赤葦さんのような。と伝えるつもりはない。

「そう言っている女性ほど落ちやすい、とデータにあります」

 赤葦さんはまるでディベートをしているような口調だった。だが紛れもなく口説いているのだろう。その瞳は、時折鋭い光を見せる。

「試してみます?」

 私が赤葦さんに逆らえないわけではない。しかし、私は赤葦さんに流されるままになってみたいと思ってしまっている。それはもう心が赤葦さんになびいているということなのだろう。

「強引にはしなくていいから、普通にして」

 私は赤葦さんを見上げた。赤葦さんは相変わらず、平静の裏に情熱を隠し持っているような瞳をしていた。