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 ベッドの中の大きな物体が目を覚ますと、私はご満悦の表情で覗き込んだ。

「おはよう。体はどう?」
「……どうしてこうなったのか簡潔に説明しろ」

 ベッドの中の大きな物体――佐久早は、素早く私から距離を取り自分の体に異常がないか調べ始めた。一応服を着ているかどうかのチェックもしている。私との可能性を少しは感じてくれていたようで嬉しい。

「昨日の飲み会で佐久早が一番に潰れたから、持ち帰ってきた」
「……古森は」
「流石に私一人じゃ佐久早は運べないからここまで運んでもらったよ。寝かせたら佐久早をよろしくねって帰っていった」

 チッ、と大きな舌打ちの音がする。潰れた佐久早を持ち帰ろうと言い出したのは私だが、私はちゃんと古森に許可を取ったのだ。「佐久早持ち帰ってもいいかな?」と。古森は楽しげに「持ち帰れ持ち帰れ!」と言った。古森は私の気持ちも佐久早への一方通行であることも知っているので、進展があることを密かに期待してくれていたのかもしれない。

「帰る」

 私の部屋を出て行こうとする佐久早を私は必死で引き留めた。

「待って! まだセックスしてない! 流石に寝てる佐久早を襲うのは恐怖だった!」
「別にいいだろ」
「じゃあせめてシャワーだけでもうちで浴びてって!」
「お前がやりたいだけだろそれ」

 佐久早は呆れた様子で立ち止まると、一つ息を吐いた。

「つーか、お前持ち帰っといてセックスはしなかったわけ」
「そうだよ?」

 流石に寝ている男相手に女主体のセックスはどうしたらいいかわからないし、佐久早ほど体格のいい相手なら反射的に攻撃に遭うのも怖い。佐久早は少し考え込んだ後、「あっそ」と言った。

「待ってそれどういう意味!? 襲ってよかったの!? それとも私とセックスしたかった!?」
「ハイエナみたいなお前が手を出さなかったのが意外ってだけだ」

 佐久早はとうとう私の部屋の玄関まで辿り着いてしまった。私はまた振り出しだとか、勿体ないことをしたとか嘆いていた。佐久早はドアの取っ手に手をかけ、振り向いて言った。

「毎回俺に好きとか言うくせに、一線は越えようとしないのがむかつく」

 それは一体、何が言いたいのだろうか。驚いて何も言えない私を置いて、佐久早は一言を残して帰って行った。

「何で持ち帰るくせにちゃんと告白する度胸はないんだよ」

 私は玄関の前に立ち尽くしたまま佐久早の言葉の意味を考える。佐久早は私に告白しろと言っているのだろうか。意地悪な佐久早のことだから、私に告白させてこっ酷くフるつもりかもしれない。そうしたら私に好きだ好きだとつきまとわれて迷惑することもないだろう。佐久早の思い通りにしてたまるか。私は新たな恋の局面に燃えた。