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「これあげる。新発売」

 古森さんが出したのは、デフォルメされた古森さんが印刷されたキーホルダーだった。彼の丸い眉などの特徴を捉えたそれは可愛らしいと思うが、私に渡したところで宝の持ち腐れだろう。

「私別にバレー好きじゃないけど」

 古森さんのまとう雰囲気からか、私は古森さんに気を遣っていない。古森さんもまた私に対して率直なことを言う。だからと言って決して親しいわけではないのだけど、不思議な関係性だ。

「でも俺のことは好きじゃん?」

 古森さんが悪戯にそう言ったことで、私は咄嗟に顔を背けた。図星だ。遠慮のない仲だからと言っても、いくら何でもそれは言ってはいけないだろう。

「アハハ、気まずいやつ? 俺は別にそんなだけど」

 古森さんはたまに酷く冷淡な人なのではないかと思う時がある。人の心がわかった上でやっているのだから余計タチが悪い。

「でも苗字さん告白の手間が減ってラッキーだったね」

 古森さんがしたり顔でこちらを見る。私は反抗するように言った。

「意地悪はされてる」

 確かに、告白はしなくて済んだけれど。それ以上の恥ずかしさを味わっている気がする。
「じゃあ俺から付き合ってって言う?」

 そう言う古森さんは私と付き合ってもいいかのようだ。実際、彼の基準は緩いものなのかもしれない。

「本気じゃないくせに」
「本気じゃなきゃ付き合っちゃいけないことはないでしょー」

 ほら、やはり私のことを好きではない。それでいて付き合おうとしていることを、嬉しいと思ってしまうのだから私は救えない女だ。

「ま、今度一緒にご飯でも行こうよ、予約しとくから」

 その予約とは、あくまでレストランのことだろうな。私は訝しむような目を向ける。古森さんはへらりと笑って、片手を挙げた後去って行った。