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 私達は待ち合わせ場所に着くなり沈黙を共有した。今日は夕方から食事をする予定だった。お互いバイトやバレーの練習はなく、デートのために準備を整えてきている。その上で私がノースリーブのトップスを選んでしまったのは、ちょっとした誤算だった。別に佐久早に気を遣ってほしいなどではなく、まだまだ夏気分でいたかったのだ。しかし佐久早は気になるようだった。

「言ってくれれば俺もジャケットにTシャツとか着てきたんだけど」
「言ってくれればって何!?」

 男性にとっては寒くないのか、佐久早はTシャツ一枚だ。私に羽織らせるようなものはない。私にその気はなくても、隣を歩く男として気になるのだろう。

「明らかに俺の上着欲しがってるだろ」

 佐久早は嫌そうに顔をしかめた。そういえばこの間の講義で、「お前は薄着すぎる」と言われたことを思い出す。佐久早と講義が被るのはそのくらいだから気にもとめなかった。

「ちょっと薄着しすぎただけだし!」

 この服は今日の昼間選んだものである。勿論夕方の今、寒さは感じている。佐久早はため息をついた後、ウェーブのかかった前髪を撫でつけた。

「今度俺の上着レンタルしてやるから」
「なっ」
「お前の服も貸せよ」

 今度、と言ったらもう寒くなっているだろう。その時にはきちんと気温に合った服を着ているだろうから、レンタルする意味はない。強いて言えば、恋人の衣服にときめきを覚えるくらいだ。私の服など着られるはずがない佐久早が私の服を求めるのも、その目的なのだろう。私は言葉を失いつつも、佐久早がそういったことに積極的になってくれるのが嬉しいのだった。