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 バカップルだと言われればそれでいい。私達は昼下がり、どこが好きだとかどうして好きになったのかという話をしていた。既に弁当は食べ終わっており、私達をカップルだと知らない人はいないので怪しまれることもない。幸郎はつきすぎず、かといって他人らしくもない距離で隣に佇む。

「そうだな、顔だよ」

 私は驚きを隠せなかった。幸郎は語弊なく、深く私を愛している。その理由が容姿だとは思わなかったのだ。

「そんなに重いのに好きなところ顔なの!?」
「心外だなぁ、顔だって立派な魅力の一つだよ」

 教室の隅で誰かの笑い声が響いた。私は一度冷静になって頭を動かす。幸郎の愛があまりにも大きすぎるあまり、私は幸郎を浮世離れした人だと勘違いしていた。しかし、結構幸郎は年頃の男子高校生らしいところもあるのだ。

「じゃあ私が老けて皺とかできたら?」
「お婆ちゃんになるまで一緒にいてくれるなんて嬉しい」

 幸郎は質問に答えなかった。それはただの感想である。というか、今の質問はあくまで仮定であって生涯を共にする約束をしたわけではない。

「私の性格は別に好きじゃないんだ」
「うん、面倒くさいよね」

 幸郎は結構率直にものを言う。それはどうでもいい人にだけだと思っていたけれど、私も例外ではないらしい。

「でもそれを上回るくらい名前ちゃんが大好きなんだよ」

 幸郎はハッピーエンドとばかりに笑顔を向けた。しかし私としては、幸郎に面倒だと思われていたなど初耳である。とてもではないが上機嫌でなどいられない。

「今日のトータルプラマイマイナスじゃない?」

 そう言うと、幸郎が「そうかな」と言って私の手を握った。クラスメイトから見えない位置に計算されているところに、幸郎の賢さを感じる。私も幸郎の手の上で転がされているのだろう。だからこの程度のことで喜ぶなどしてやらないのだ、と思っている時点で負けかもしれない。