▼ ▲ ▼

 最近、毎日犯す夢を見る。それが顔もないただのモブならいいのだが、相手は同級生の苗字名前だった。顔見知りとなれば話が違う。俺は嫌でも苗字を意識したし、無意識下でも苗字をそういった目で見ているのだと思うと辟易した。勝手に苗字を性的に消費しているかのような。世はそんな男尊女卑ではない。俺は今日も何でもないふりをして――しかし明らかにふてくされた表情で――教室に入ろうとした。すると俺の存在に気付かなかったらしい苗字が硝子が話している。

「は? あいつと?」
「そう、それも犯されてる夢なの……」

 俺は雷に打たれたかのように立ち止まった。俺だけではなかったのだ。俺達は夢の中で交わっていた。俺達の間には何らかの繋がりがある。

 立ちすくむ俺の横を傑が通り過ぎて行った。「早く席に着かないと遅刻だよ」との声を受け、俺は無心のまま椅子に座る。一日をどう過ごしたかは覚えていない。気が付いたら、俺は苗字を呼び止めていた。

「なあ」

 放課後、苗字は談話室で振り返る。奇しくも俺が夢に見ていたシチュエーションだ。俺は談話室で、苗字とセックスをした。

「夢で犯されてるってマジ?」

 苗字はしまったと言うような顔をした。異性である俺に知られるのは恥ずかしいと思ったのだろう。だが俺は何もなかったら無粋に声をかけたりしない。俺は苗字と不思議な縁で繋がっているのだ。

 俺もだよ、と言おうとした瞬間、苗字は口を開いた。

「そうなの、私、夏油君とする夢を見るの」

 俺の中の何かが音を立てて崩れ去った。俺が繋がりだと思っていたものは、一方的なものだったのだ。苗字は、傑に犯される夢を見ていた。俺ではない。

 無性に腹が立って、俺は苗字を押し倒した。夢でさえ苗字を犯すことを嫌に思っていたはずなのに、現実でできてしまうのが恐ろしかった。俺の頭はとうに冷静さを失い、苗字を求める。俺と苗字の繋がりがなかったら、俺が見ていた夢は何なんだ。俺は不条理に苗字を痛めつけた。