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 侑がそれを見つけたのは、母親に言われてシーツを取り込もうとした時のことだ。侑の家の庭に、不釣り合いなパステルカラーの何かが落ちている。子供の風船でも飛んできたのだろうかと拾い上げた侑は、表情を変えた。それは女性が思春期あたりから身につける下着――ブラだったのである。

 侑はすぐさま周囲を見回した。誰にも見られてはいない。その後、隣の家のベランダを見る。どう考えてもあそこから落ちてきたと考えるのが自然だろう。何せ、この辺りに若い女は隣の家の幼馴染、苗字名前くらいなのだ。それにこのデザインは名前が好みそうなものである。侑はそっとポケットに入れて、何でもないようにシーツをしまった。

 問題なのは、どう返すかである。このまま持っていれば名前は下着を盗まれたと思うだろうし、侑が下着泥棒になってしまう。返さなければならないのだが、幼馴染であるだけにやはり気まずい。ビンタでもされればいいところだが、顔を真っ赤にして引ったくられた日には侑の罪悪感は天まで達するだろう。

 名前と仲の良い侑の母に頼むか。同じ女性ではあるが、やはり実の母親にブラを拾ったとは言いづらい。治は絶対にダメだ。治ならば平然とブラを名前に届けてしまうだろう。いやそれでいいのだが、侑は納得できない。数日間考え込んだ末に、侑は素直に持っていくことにした。今から行く、と連絡を入れて家のインターホンを鳴らす。

「はい」
「落ちてた」

 出てきた名前にブラをそのまま差し出すと、名前は女性らしい怒りを見せた。

「何そのまま晒しとんねんアホ!」

 名前はブラを引ったくり、ポケットにしまう。侑とて結構な覚悟で持ってきたのに、アホ呼ばわりは心外だ。だが名前がブラを取り戻せたならいいか。そう思っていた時、名前は聞き捨てならない言葉を吐いた。

「治がパンツ持ってきてくれた時はタオルにくるんでくれとったのに」
「何やとォ!?」

 今度は侑が吠える番である。治も同じことをしていたなんて、聞いてない。熱くなった侑と名前のいつもの喧嘩が始まり、ブラはすっかり意識から外れてしまった。そうして侑は乱暴に名前の家の玄関を閉めるのだ。

「洗濯バサミ買いなおしとけ!」

 家に帰ったらじっくり治を問い詰めよう。治がそんな紳士だなど聞いていない。侑は二人に裏切られた気分で家へと帰った。