▼ ▲ ▼

 佐久早君に呼び出された。私が浮かれるのは佐久早君が学校で人気の男子だからではない。私は数日前、佐久早君に告白したのだ。これはその返事と見て間違いないだろう。佐久早君は既に指定場所におり、私を見て「来たな」と言った。佐久早君の視線を痛いほどに感じる。私は思わず無意味に手を擦り合わせる。

「何かな」

 佐久早君は何も言わず、私に近付いた。これから何をされてしまうのだろうか。まさか、キスだとかそういうこと――私の予感は、喜ぶべきか悲しむべきか当たってしまった。佐久早君は私を抱き寄せ、頭の裏に手を回すと、唇を重ねた。佐久早君の唇の感触は痛いほどに伝わってくるのに、私はまるで現実について行けていない。何故、佐久早君は私にキスをするのだろう。嬉しいはずなのに、疑心が勝ってしまうのは佐久早君に返事を貰っていないからだろうか。私の気持ちは知られているのに、佐久早君の気持ちはわからないのだ。こんなの全く平等ではない。

 私の不満が伝わったのか、はたまた最初から反論されることを予期していたのか、佐久早君は唇を離すと言い訳がましい言葉を口にした。

「お前が好きだって言ったんだろ」

 全てを私のせいにするような、我儘で自分勝手な一言。佐久早君は意外に末っ子らしいところがあるのかもしれない。自分でも単純だと思うが、私は佐久早君のこういった言葉に丸め込まれてしまうのだ。

 この日、私達は佐久早君の部活が始まるまでキスをしていた。時間が来て私を離す佐久早君の手は、どこか名残惜しそうに思えた。

 雰囲気に呑まれているのも当日だけの話である。後日、私は佐久早君の元へ向かった。何故あのようなことをしたのか。私のことをどう思っているのか。失恋覚悟でも聞かなくてはならない。私に詰め寄られた佐久早君は恥ずかしそうな表情をすると、ふいと顔を逸らした。

「俺がお前を好きなのは当たり前のことだろ」

 そこまで言われるとは私も思っておらず、私達は二人で照れてしまった。