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「二の腕の筋肉触らせて!」
佐久早は眉を顰めた。何も今目の前で楽しそうな顔をしている苗字がむかつくというわけではない。女子に筋肉を触らせる、その行為に佐久早は途轍もない抵抗があった。
「男子が女子に筋肉触らせるっていうのは女子が男子に二の腕触らせてるみたいなもんだ」
まるで自らの性的アピールをしているかのような。佐久早は男子に二の腕を触らせる女子を嫌悪しているが、筋肉を触らせるのもそれと同等だと思う。要するに、やりたくないのだ。しかし苗字は相変わらず能天気な顔をしていた。
「何が悪いの?」
「お前触らせてるのか!?」
筋肉を触らせることの悪さがわからない、イコール二の腕を触らせることの悪さがわからないということである。過去に苗字の二の腕を触った男がいるのではないかと、佐久早は前のめりになる。
「触らせてはないけど」
安堵しつつ、佐久早は次なるステップへ進んだ。いや、駆け引きと言うべきだろうか。
「俺には触らせられるか?」
佐久早は苗字にとって特別に入っているのか否か。それを知る前に、苗字の正論によって佐久早の浮かれ気分はシャットアウトされた。
「筋肉触らせるのも二の腕触らせるのもダメなんじゃなかったの?」
これは先程佐久早が言っていたことだ。二の腕を触らせるのを筋肉を触らせるのと同じくらい悪いこと、と宣言しておいて自分は苗字の二の腕を触るのでは筋が通らない。苗字のくせに鋭いものだ。
「うるさい」
佐久早は言って、前のめりになっていた身を引いた。体を触らせてもらうのは、きちんと段階を踏んでからにしろということだ。
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