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 ブースが空くまで座っていたいと思っていたところに、ヒュースの腹が鳴った。私達はラウンジへと移動し、簡単な食事を購入した。ヒュースは席で待っているだけだったのだが、私が持っているプレートを見てあからさまに顔をしかめた。

「おい、いくらかかった」
「ヒュースお金なんて持ってないでしょ?」

 私はヒュースの方へ飲み物とサンドイッチを置く。まだB級の給料も出ていないだろう。捕虜がお金を持てるのかも疑問である。しかしヒュースは頑なに手をつけなかった。

「関係ない。女に奢られてたまるか」

 それは女を下に見ているというより、男である自分への戒めが強いゆえの誓約なのだろう。アフトクラトルでは立派な考えも、こちらの世界では意味をなさない。

「ヒュースが払えるものなんて体くらいしかないよ……」

 私はほんの冗談のつもりだった。しかしヒュースは立ち上がり、隊服の上着を脱ぎ出すではないか。

「カラダでいいんだな?」

 ラウンジには人目もある。そうでなくても、私はヒュースの体など求めていないのだ。

「いい! いい! キスとかでいいから!」

 正直、私はキスも体もどちらもいらない。しかし体に比べれば、そこまでしなくていいという意味で言ったのだった。

「お前はそれがいいのか?」

 ヒュースが私の首裏を押さえ、軽く唇を重ねる。再度言うが、ラウンジには人目もある。私はやってしまった、という思いで立ち尽くしていた。別にヒュースのことを好きでもないのにキスをねだった形になってしまった。でもヒュースだって私のことを好きでもないだろうにキスをできるのだから、おあいこだろうか。気付けばヒュースは堂々とサンドイッチに噛み付いていて、その平常さに少し腹が立った。