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 学校が会場するまであと数十分というところで、侑は教室にいた私に目を止めた。クラスTシャツの赤の中、侑の金髪は酷く目立っている。私にそれほど目立つものはないだろうに、侑は私をじっと見る。

「お前今日化粧した?」

 その瞬間私は羞恥に襲われた。なんとなくお洒落や垢抜けようとしてしたことを指摘されるのは気まずいのだ。

「ええやん文化祭の日くらい! 生活指導に言い付ける気!?」

 そもそも、侑だって校則スレスレの金髪だ。侑に責められる筋合いはない。私が怒鳴れば、侑も怒鳴るのは必定だった。

「俺は別に小さな変化に気付いたろ思ただけやん!」
「何で?」
「え?」

 侑は素知らぬ顔をしているが、侑とて女子全員に興味があるわけではないだろう。むしろ上から目線でランキングを立てている方だ。その侑がわざわざ目をかけて変化に気付いてやるなど、裏があるとしか思えない。

「下心あるやろ」

 私が言うと、侑は悪戯をしらばっくれる犬のようにそっぽを向いた。

「かわいい女子には平等に優しい侑くんの親切心や! 女子の努力は誉めるんや!」

 ならば薄化粧をしているクラスの女子全員に言って回ったらどうか。それをしない時点で侑は下心があるのだ。責めているのに嬉しいという矛盾に襲われながら、私は侑の視線を追う。でもやはり友達のような侑に狙われるのは、どこか居心地悪い。侑もそれをわかっているのか、素直に口説くことはしなかった。こういったところからも恋は始まるのだろうか。私達が明日付き合っていたら、多分文化祭マジックというやつだろう。