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 出かけているところにちょうどメッセージが来て、立ち止まってスマホをいじっていた。それは偶然三門の有名待ち合わせスポットだった。私はすっかり今日買う予定のプリザーブドフラワーについて考えていたのだが、私に近寄る影は唐突に姿を現した。

「いずみさんですか?」

 一つ言うならば、私の名前は全く「いずみ」ではない。彼が待ち合わせをしている風なのに対して私の予定は一人で買い物をするのみだ。だが、マッチングアプリか何かをしているだろうイケメンを手放したくなかった。

「はい!」

 私は堂々と嘘をつき、彼と一緒に街を回った。洋食屋でご飯を食べ、本来の用であるプリザーブドフラワーも買う。彼はついでだと言ってお花を一本私にくれた。私達のデートは完璧だと思えた。

「で、本当の名前は何て言うの?」

 これから解散するか、飲み屋に入るかという時間帯、彼は前を向いたまま言った。私はぎょっとして彼を見る。

「気付いてたんですか?」
「そりゃあ気付くでしょ」

 その笑顔にいたたまれなくなってくる。私が人のデートのチャンスを奪う浅ましい女だということは知られてしまったのだ。

「じゃあ何で何も言わずに一日……」
「そりゃあ君が健気だったから」

 彼は、私が「いずみ」さんではないと知った上で私とデートをしてくれたのだ。それは優しさゆえなのか、それとも別の何かか。彼は本来「出水」という人のお姉さんに仕事の用があったのだと教えてくれた。

「今度は名前教えてね」

 彼があまりにも華麗に去って行くものだから、私は追いかけることができなかった。しかし、彼とはまた会える。根拠もないのに、私はそう感じていた。