▼ ▲ ▼

 五条さんと二人で出張になった。その時点で嫌な予感はしていたのだが、それは杞憂にはならなかった。明日の確認をしに夜部屋に訪れた際、五条さんは当然のように私を部屋の中へ誘導し、ベッドに押し倒そうとしたのだ。五条さんにとっては軽い気持ちだったのかもしれないけれど、私にとっては一大事である。何せ経験がないのだ。

「そういうことをするのは結婚する人って決めてるんです!」

 私が言うと、五条さんは素直に身を引いた。理解してくれたのか、と思った瞬間、五条さんは目隠しの上からでもわかる馬鹿な顔をした。

「セックスできる上に結婚までしてくれるの?」
「無理やりしようとしないでください!」

 私が言いたいのは結婚するくらい好きな人としかセックスしたくない、ということであって、セックスした人と結婚するという意味ではない。そもそも、あの五条さんが結婚という言葉を軽々しく持ち出すことが意外だった。私に本気なのだろうか? 流されそうになった自分を律する。

「じゃあ合意ですればいいか」

 五条さんは首元の服を緩めた。五条さんが何をするつもりなのか、思わず身構えてしまう。
「合意の意味わかってます? 私が好きにならなきゃ無理なんですよ」

 ただでさえ男のカーストの上位にいる五条さんに対して、生意気なことを言っている自覚はある。しかし五条さんは少しのことでは怒らない気がした。多分、私には。

「うん、だから今どうやって好きになってもらうか考えてる」

 その余裕と自信に目が眩みそうになった。目隠しで五条さんの顔が見えないのに、私はしてやられそうだ。まさか、私は五条さんの内面に惹かれているのだろうか? それだけはない、と思うと同時に、胸が高鳴り始めていた。