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 ダイエットをする、と宣言して暫くが経った。私は何をするにも周りに言わないと成功しない質で、悟に言ったことに特に深い意味はない。しかし悟は、トレーニングを終えた私に対し懐疑的な顔つきを浮かべた。

「僕がいる限りダイエットは成功しないんじゃないかな?」

 何のつもりだろうか。そもそも、ダイエットとは結果がわかるまでに時間がかかる。私が反発しているのを受け取ったように悟は言葉を続けた。

「だって名前僕といたら今の自分ごと好きになっちゃうでしょ?」

 私は何も言えずに唇を尖らせた。悟は、私の全てを愛する。私が太っていても痩せていても悟の愛は変わらないだろう。ダイエットに失敗しても、お肉があった方が可愛いよ、なんて言われたら私は反省しないに違いない。私が痩せるためのモチベーションを持ち続けるには、悟の存在がネックなのだ。

「別れでもしない限り無理だよ」
「別れ話?」

 片方の繭を上げて悟を見る。悟が私を深く愛している、という話のはずが、気付いたら別れの話になっていた。悟は大して動揺もせず両手を組んでいる。

「そうじゃないけど。僕が名前の愛し方を変えることは無理」

 痩せないから厳しくする、といったことはできないということだ。勿論別れるつもりもないのだろう。

「じゃあもうダイエットできないじゃん」

 呆れたように私が言うと、悟は目隠し越しでもわかる甘い表情を浮かべた。

「うん。責任とってまんまるの名前を愛し続ける」

 言われていることは嬉しいが、「まんまる」と思われていたことは少し意外である。

「私はモチベーション維持を頑張る」

 再びトレーニングに戻ろうとすると、悟が後ろで苦笑いするのがわかった。