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「私は佐久早のファンだから」

 苗字がよく言う言葉だ。「ファン」とは好かれているようで距離を置かれていると思う。決してあなたには本気でないですよ、と。

「ファンって言うのやめろよ」

 俺は苗字に語りかけた。苗字は昼休みの喧騒の中立ち尽くしていた。遠くで誰かがふざける声が聞こえた。俺達のことには、誰も注意を払っていない。

「俺がもしお前になんか見返りをやったら、全員にやらないといけなくなるだろ」

 全国優勝して少なからず有名になってしまった俺には、何名か好きだと言ってくれる人がいる。その人達に対しては平等でなくてはいけないと思う。苗字だけ贔屓するわけにはいかないのだ。

「見返りなんてなくても別にいいけど」

 苗字はけろりと答えた。大抵ファンというものは見返りを求めるものだ。そうでなくても無償の愛なんて、それこそ家族でもないと不可能ではないか。つまり、苗字は俺を愛している。

「お前よくファンとか言えたな!」

 俺の体が沸騰した。俺のことを好きだと言う人に怒るのはこれが初めてかもしれない。

「何で? 佐久早のことこんなに好きなのに」
「方向性が間違ってんだよ!」

 苗字は自分がファンとしての好きだと思い込んでいる。早くこの勘違いを矯正させなくてはならない。しかし、それをするにはどうしたらいいだろうか? 俺は目まぐるしく回る思考の中苗字を見た。