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「佐久早なんて将来プロバレーボーラーなんだからお金に困らないでしょ? そのお金で女買ったら」

 訂正のしようもない。それは間違いなく私の言葉である。佐久早が私などに構うものだから、興味を他へ向けさせたくて言ったのだ。私と佐久早のこれからの可能性については、全く考えていなかった。

「買ってきたよ」

 あれから数年、佐久早はプロバレーボーラーになった。期待の新人と持て囃され、試合にも多く出ている(チェックしているのは内緒だ)。恐らくお金に余裕が出てきたのだろう。佐久早の手には、プラスチックのカードのようなものが載せられていた。

「二人の家の鍵。一緒に住んで、名前ちゃん」
「お金で買うってそういうこと!?」

 私は漸く自分の言葉が佐久早に火をつけてしまったのだと気付いた。佐久早は有言実行であり、根に持つタイプた。だからと言って勝手に家を買わなくてもいいのではないだろうか。罪悪感で私に頷かせる気だ。

「俺は一度買ったら死ぬまで大事にしたいタイプだから」

 佐久早は少し嬉しそうな表情を浮かべた。差し込み式ではなくタッチ式の鍵は、佐久早が買った物件が最新式であることを示している。私はいよいよ断れなくなってくる。

「その場だけの女なんていらない。名前ちゃんと暮らす未来が欲しい」

 何年もそのためだけに努力し続けてきたのなら、まあ流されてもいいだろうか。などと考える私は甘い。あの言葉からずっと友達ではいたのだから、少しくらいの好意はある。それを恋愛へ変える努力くらい、佐久早の努力に比べたら小さなものだろう。私は仕方なく鍵を受け取った。