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 海賊に結婚という制度はない。一応それぞれの国に役所は設けられているが、のこのこと婚姻届を提出しに赴きなどしたらその瞬間に捕らえられてしまうだろう。多くの海賊は強さと金にものを言わせて行く島々で女を取っ替え引っ替えしている。ローのように一人の女に固執している方が珍しいのだ。

「お前はずっとおれのそばにいろ」

 それがローにとってのプロポーズだと思っていた。海賊は事実婚しかできない。形式ばって永遠の愛を誓うようなことはないのだ。だからローの言葉で満足していた。それでも不安は伝わっていたのだろうか。とある島で海軍に追われた際、ローは海兵の体を解体しながら私の肩を抱いた。

「おいモルガンズ、明日の朝刊に書いとけ! こいつはおれの嫁だ!」

 その場には偶然モルガンズが居合わせていたのだ。勿論モルガンズは目にも止まらぬ速さでシャッターを切っている。ローの腕の中で、私は嬉しさと混乱が渦巻いていた。一応私は海賊船に乗っているが、あまり目立っていないからか指名手配されることはなかった。だがこうも宣言されては、政府や賞金狩りが黙っていないだろう。ローが嫁と言ってくれたことは嬉しいのに、どうしても今後のことが気になってしまう。

「おれが守るから問題ねェ」

 またしても私の心を読み取ったように、ローが低く呟いた。一度指名手配された者が解除されることはない。死ぬまでずっと追われるのだ。それを守るということは、一生一緒にいることと同義だった。思わぬ形でプロポーズを貰ったことに気付き、私は海軍の前で破顔した。明日の朝刊に載る指名手配写真が、私達のウェディングフォトだ。