▼ ▲ ▼

 爆豪さんはうちの事務所のサイドキックだ。彼は瞬く間に頭角を現し、うちに来て一年足らずで独立するまでになった。元からうちの事務所はただの足掛けだろうと思っていたものの、在籍期間中はそれなりに親しくしていた。送別会の帰り、爆豪さんは私を呼び止めた。

「お前、俺の事務所来い」

 特に事務所にこだわりのなかった私は爆豪さんの事務所へと移籍を決める。爆豪さんを扱えるのは私くらいだろうということで、うちの事務所の人も笑顔で送り出してくれた。驚いたのは私が爆豪さんの事務所に腰を落ち着けた後、見計らったように告白されたことだ。

「好きならそう言ってくれれば私から行ったのに」

 爆豪さんの勧誘はあくまでビジネスライクだった。爆豪さんが私を引き抜いた、という形になっている。だが前もって一緒にいたいと言ってくれれば、私の方からついて行ったのだ。

「引き抜くなら俺が事務所立ててからから金でって決めてんだよ」

 爆豪さんは前を向いたまま話した。気持ちに頼らず、きちんとした手順を踏むのが真面目な爆豪さんらしいと思った。

「つーか、告白の返事はそれでいいんか」

 爆豪さんは視線を私の方へ寄越す。移籍の件で忘れていたが、私は告白されていたのだ。

「あ、はい。私も爆豪さんが好きです」

 呆気ない告白だった。そもそも、最初について行ったのにと言った時点で気持ちを開示したも同然なのだ。あまりにもロマンスに欠ける返事に爆豪さんは「フン」と鼻を鳴らした。

「公私混同はしねぇ。でも休日は覚えとけ」

 まるで宣戦布告のような物言いに、私は少し笑った。