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 佐久早君に呼び出された時、私は断られることを覚悟していた。佐久早君に告白した時の返事は「考えさせてほしい」だったし、校庭の隅にいる佐久早君の表情はあまり明るくなかった。立っていることがしんどい、と思ったのはこれが初めてだった。

「正直、俺はお前が好きかどうかわかんねぇ」

 佐久早君はあくまで真剣だった。それほど真摯に私に向き合ってくれているということが嬉しかった。断られる準備が整ったところで、佐久早君は形成を逆転した。

「だからお前が責任持って教えろ」

 佐久早君のじとりとした目は、決して申し訳ないと言うようなものではない。むしろ私のせいだと言いたげな、攻めるような視線だ。

「私でいいの?」

 好きかどうか教えると言うのなら少し関わるだけでは済まない。佐久早君も私も付き合うことを想定しているはずだ。佐久早君は顔色一つ変えずに頷いた。

「教わるならお前がいいと思ってる」

 その時点で、佐久早君に告白した数多の女の頂点に私は立ったのだろう。だがそこに甘んじているようではいけない。

「都合よく私が好きって思い込ませるかもよ?」
「そうしたらその時はその時だ。叶うってわかってる恋だけありがたい」

 仮に私に気持ちをコントロールされたとしてもそれを受け入れると言う。両思いになるまで手っ取り早い方がいいというのがなんとも慎重な佐久早君らしかった。でも多分、私に佐久早君をコントロールするだけの技量はない。

「よろしく」
「……よろしく」

 ここからが私の理性の試される場所である。私は意気込みを新たにした。