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「好きな先輩に童貞とは付き合いとうないってフラれた」

 侑が私の部屋に勝手に上がってくるのはいつものことである。私はできるだけ神妙な顔を作りながら、侑へ向けて頷いた。

「そうなんか……」
「そこは私とする? って言うとこやろ!」

 侑は私との浮いたことを期待して家へ来たようだった。だがそんなに元気よくツッコミをしたら甘い雰囲気にはならないのではないか。私も侑に利用されたくなどないので、普段通りの喧嘩腰で返す。

「何で私と侑がせなあかんねん! 私やって初めては大事にしたいわ!」

 何も初めてを侑が他の人とするための前段階として消化する気はない。侑は私を睨むように見た。

「どうせお前ちょっとは俺のこと好きやろ! 言うてみい!」

 侑にはお見通しなのだ。私は侑に普通に接していられるが、その内に恋心を秘めていた時期があった。

「ま、まあ何かの間違いで好きになりかけたことはある」

 てっきり得意げな顔をするかと思ったが、侑は少しきまりの悪そうな顔をするだけだった。

「でもな……」
「何や」

 侑は歯切れ悪く口を開く。私をただの童貞を捨てるための女だと思っているような表情ではなかった。

「俺かて初めてやしお前とヤったらお前に情が移りそうやなって」

 侑はそれがいけないことのように話す。侑が私を下に見ているということがありありと伝わってくる。

「侑こそ私のことちょっと好きやろ!」
「何を勝ち誇った気でおんねん! 好きでもなければ初めて捨てるのに選ばんわ!」

 私達は普段の喧嘩腰のまま、告白のような話になってしまった。昂った熱を冷ましながら、冷静に頭を整理する。

「……先輩と付き合う話やっけ?」
「ああ、もうええなそれ」

 今日私達が体を重ねるなら何かの間違いかもしれない。しかし間違いだからこそ、私達は一回で終わるのだ。侑の瞳が鈍く光った。