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 卒業を間近に控えた頃、私は自分が噂されていることを知った。三年は受験シーズンであるが、既に受験を終えた人達の中で話題になっているようなのだ。佐久早と私が付き合っている、と。

 本人は推薦でとっくに受験を終えていることを知っている。私は慌てて佐久早に電話した。ものの数コールで佐久早は出た。

「もしもし」
「付き合ってるってどういうこと!?」

 私の勇んだ様子を嘲笑うかのように、電話口で小さく笑う声がする。「ああ、そのことか」佐久早は随分軽く考えているようだが、私にとっては一大事である。

「言っただろ。部活があるから付き合えないって」

 私は過去に一度佐久早に告白した。その時、部活を理由に断られたのだ。部活というのは私を断る上での都合のいい言い訳だと思っていた。しかし、嫌な予感が頭を過ぎる。

「だから?」
「部活が終わったから、もう付き合える」

 どこまで世界は佐久早中心に回っているのだろう、と私は頭を抱えたくなった。私が告白してから一年近く経っている。好きでなくなっている可能性の方が高いし、そうでなくても付き合うと言うのなら同意をとるべきだ。

「私が好きだからいいけどそうじゃなかったら事故だからね!?」

 私が電話口で必死の抵抗を見せると、佐久早は平然と返した。

「好きなんだからいいだろ」

 結局一年経っても佐久早を好きでいる私には何も言えないのである。私はもどかしい思いで携帯を握りしめた。怒って電話を切る気にはなれない。