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「俺、お前のこと嫌いじゃない」

 それは私が佐久早と協力して一から文化祭を作り上げた時の台詞だった。佐久早は部活で多忙なため殆ど私が仕事を請け負ったのだが、最後の方は二人で文化祭実行委員を務め上げた。私達の青春らしい何かは文化祭で消えるものと思ったが、平常へ戻っても佐久早は特別なままだった。正確には、私にとって佐久早が特別だというより佐久早にとって私が特別なのだ。

「なんか距離近くない?」

 すれ違いざまにやたらと絡む。それだけならいいのだが、学食で隣に座ったり、席までやってきて話したりする。文化祭が終われば特に用もないのだから気になるというものだ。私の期待のこもった視線を受けて、佐久早は湯気を上げている肉うどんに目線を落とした。

「告白しただろ」
「いつ!」

 私の必死さに構わず、佐久早はうどんを啜っている。佐久早のマスクをとった顔は久しぶりに見た。やっぱり格好いい、と思うのは今告白されたからだろうか。

「嫌いじゃないってやつ」

 佐久早はうどんを飲み込んでから、「俺の世界には好きか嫌いかだけだ」と付け足した。要するに普通がないのだろう。

「極端すぎるよ」

 私は文句を言う。文句を言うが、その表情があまりにも浮かれていることは認めるほかなかった。

「お前こそ、俺が近付いても嫌がらないくせに何も言わないだろ。どっちなんだよ」

 今私が求められているのは、好きか嫌いかだ。佐久早がこれだけはっきりしているのに対し、私は曖昧である。できれば雰囲気に任せて付き合うことになりたい。そう思っている時点で答えは見えているのだ。佐久早は私を見逃してくれそうにない。

「付き合いたいよ」

 私が言うと、佐久早はうどんを啜ったまま「ん」と言った。