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 親戚のお姉さんが結婚した。私は式当日になって玉狛支部にお邪魔した。ちょうどご祝儀袋を切らしていたのだ。迅さんや陽太郎は私のドレス姿を褒めてくれたが、生意気な捕虜は「フン」と鼻を鳴らしただけだった。

「何故金を出す」
「ご祝儀って言って結婚式にはお金出すの」

 ご祝儀袋に名前を書く。結構緊張するものだが、どうせ気合いを入れたところで綺麗な字は書けないと開き直ったらすぐに済ませられた。恐らくこの世界にボーダー以外の知り合いはいないであろうヒュースは、呑気な顔をしている。

「人の結婚で金を払うのか? 不思議な国だ」

 ヒュースにもお金の価値はわかるらしい。私は何か言おうとしたが、出発の時間が迫っていることに気付き慌てて玉狛を出た。迅さんが「気を付けてな」と送り出してくれた。

 その数ヶ月後のことだ。人のいない玉狛支部にて、私とヒュースは向かい合っていた。ヒュースの手にはお札が握られている。ヒュースのやつ、いつの間にそこまでのお金を手に入れたのだろう。

「何やってるの?」
「金を払ってる。男女の交際に必要なんだろう」

 そう言われてしまえば、私はこれが援助交際のように感じてしまう。だが私達の歳は近いし、ヒュースにそういった知識があるとは思えなかった。ヒュースが意図しているのは、この間のご祝儀の件だ。

「それ本人はいらないから。ていうか結婚までするつもり?」

 金を払うそぶりを見せたのは、好きだと言いたくない意地だろうか。私が聞くと、ヒュースはあっけらかんと答えた。

「してもいい」
「何で上から目線なの」

 とりあえず結婚はしないとして、と言うとヒュースは目に見えて衝撃を受けた顔をした。しかしその次に言った言葉でヒュースの表情は和らぐ。なかなか面白い奴だ、と私は思う。