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 深夜零時を回るかという頃、私達は揃ってソファに座りグラスを手にした。グラスの中ではハイボールがご機嫌に揺れている。私達は棘のある物言いも顰めっ面もしなかった。私達にとっては、珍しいことだった。

「言っておくが俺はナンパなんてしたくもない。お前が勝手に好きになったから口説いたこともない」

 唐突に聖臣が口を開いた。言っている内容は情けないし、その言いぶりは言い訳のようだ。事実、聖臣は私の次の女は見つけられる気がしないと私に宣言しているのだろう。その宣言の先に何の主張もないことはわかっている。

「私が悪いみたいな言い方しないの」

 大学で出会ってから数年間、ずっと聖臣と付き合っていた。聖臣は恋愛経験があまりなく、私との付き合いも私が半ば強引に始めたから女の子との付き合い方などわからないのだろう。そう考えると私は結構残酷なことをしているのかもしれない。

「この数年間はお前で塗りたてられてんだよ」

 聖臣はハイボールを煽った。グラスが空になったのに、席を立とうとはしなかった。私もまた一口飲み、頭がいい具合に酩酊したところで聖臣にもたれた。夢のような時間だった。今日こうして聖臣と穏やかなひとときを過ごせていることも、数年間に渡って聖臣と付き合えていることも。私はテレビ棚にある置時計に目をやった。それは旅行に行った際に訪れた工房で職人が作ったもので、私達は半分ずつお金を出して買った。あれは、どうしようか。部屋の隅に置かれた段ボールが急に存在感を放つ。聖臣が新しく借りた部屋の準備が整うまであと一週間。お互いに新しい部屋に入ることができたら、私達は同棲を解消する。