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 薄暗い部屋の中で衣擦れの音が響く。暗闇の中で獣のようなローの瞳がぎらりと光を見せた。

「嫌……」

 私が身をよじった時、予想外の出来事が起きた。

「じゃあやめるか」

 今までの雰囲気はどこへ、ローは私の上から身を引いたのである。その様子に少しの名残惜しさも感じられない。

「何で!?」
「嫌なんだろ」

 ローは平然と答えてみせた。ローが実は優しい男だということは知っている。欲に任せて襲わない余裕も、経験や慣れから来るものかもしれない。だが、今はそういったものが欲しい場面ではないのだ。

「これはそういう嫌がりじゃないの! 普通少しは抵抗するでしょ」

 形だけの抵抗というやつである。私はローとセックスをすることが少しも嫌ではない。ただ雰囲気を上げるために言ってみただけなのだ。「嫌」は喘ぎ声の一つである。ローはベッドのそばに立ったまま近付こうとしなかった。

「おれの前で抵抗する女はいなかった」

 そういえばローとはかなりモテるのだった。ローに求められたとなれば、喜んで股を開く女が多勢なのだろう。残念ながら私にそんな積極性はない。

「私はそういう女じゃないの!」

 言い訳をするように叫ぶと、ローが長いため息をついた。

「お前を知るためにこれから抱く。いいな?」

 そういう女じゃない、と言ったからだろうか。セックスをあくまでコミュニケーションの一つと捉えているのがローらしかった。今まで抱かれたいと思っていたはずなのに、抱かれたら私の知らない部分まで暴かれてしまいそうで急に恥ずかしくなる。だけど私の喉は、「はい」と小さく音を出すのみだった。嫌がらないこともできるではないか、と私は自分に感心した。