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 風呂上がりにスマートフォンを弄っていると、軽い着信音と共にメッセージアプリの通知が来た。バナー型の通知には、「好きや」と書かれている。差出人は去年同じクラスだった宮侑だ。今は夜の十時を回ったところで、男子バレー部の面々は今日お泊まり会をするのだとSNSで知った。

 私はため息を吐いてからメッセージアプリを開いた。相手は侑ではなく、同じクラスの角名である。男子バレー部でお泊まり会をするなら角名も招かれていることだろう。

「ノリで告白とか、しないでほしいんだけど」

 何かと悪ノリをする侑のことだから、好きでもないのに告白でもしてやろうと張り切ったのだろう。現に、去年私は侑から散々こいつだけはないだの女ではないだのと言われていた。侑が悪ノリをする時は、大抵角名やその他が唆している。角名は静観していることが多いけれど、結構腹黒いのを私は知っている。一瞬でも感じた胸のときめきを返してほしい。侑からのメッセージは未読にしたまま、私は角名の返信を待った。

「何のこと? 俺苗字に告白なんかしてないけど」
「侑のこと! 今日男バレ泊まってるんでしょ?」

 ここまで来てとぼけるつもりだろうか。角名にとぼけられたら、私は告白されてもいないのに告白は迷惑ですと言っている痛い人になってしまう。

「侑? 知らないけど。ていうか俺達が泊まってたのは昨日だよ」

 私はスマートフォンの画面を凝視したまま固まる。侑の告白は、バレー部のノリで行ったものではない? というか、侑は今家に一人でいるのだろうか。

「それ多分侑ガチで告白してるんだよ」

 角名の言葉に私の指が震える。「何で? 去年とか私散々な言われようだったんだけど」私が返信すると、すぐにまた返事が来た。

「さあ。侑は結構単純だから、好きな子ほどいじめたかったんじゃない」

 角名がふざけているようには思えない。とうとう本当に、私は侑に告白されているのだろうか。追い討ちをかけるように、「返事してあげなよ」とメッセージが来た。

「返事って、なんて」
「それは苗字が決めなきゃ」

 画面越しに角名の顔が見えるようだ。侑と私の必死な様子を俯瞰して面白がっている様子が。角名は今楽しくて仕方ないだろう。

「待って、もう少し考える」
「侑のことどれくらい放置してんの」
「かれこれ三十分未読無視」
「かわいそ」

 侑に対して誠実に応えなくてはならないと思えば思うほど、侑が私なんかに告白するわけがないという意識が邪魔をする。私は画面をスクロールして角名とのやりとりを見た。角名は意地悪な奴だが、ここまで嘘を通すとも思えない。

「決めた。私侑の告白受け入れる」
「それ俺じゃなくて侑に先言ってやりなよ」

 角名の言うことにも一理ある。私は長らく放置していた侑とのトーク画面を開くと「侑」と送った。するとすぐに既読がつき、「何や」とメッセージが来た。三十分間ずっと待機していたのだろうか。少し申し訳ない。

「もし侑が私と付き合いたいって言うなら、私もそうしたいなって」

 既読はすぐについたものの、返信まではややあった。侑は侑らしくない落ち着いた様子で「ほなよろしく」と送ってきた。それと同時に角名からまたメッセージが来る。

「侑がさっきから俺にライン爆撃してきてうるさいんだけど何とかしてくれない?」
「それは無理」
「付き合ってからも双方の世話するとかごめんだからね」

 私は思わず笑い出してから、「よろしくお願いします」のスタンプを送った。本来これは侑に送るべきものかもしれないけれど、まあいいか。