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 佐久早くんに呼び出された。場所が体育館裏なのは、彼にとって馴染みがあるからだろうか。あまりにも定番すぎるスポットに、私は話の中身を期待してしまう。佐久早くんは少し落ち着かない様子で私を見ていた。私がそうさせているのだということが、嬉しくなった。

「試合に勝てたら付き合って」

 私の予想は正しかった。佐久早くんは私を好きだったのだ。私が頷くより先に、「来週地区大会があるから」と佐久早くんが続けた。浮かれていた頭に一つの疑問が起こる。うちのバレー部は、というより佐久早くんは、かなり強いのではなかったか。

「佐久早くんってこの間全国優勝したんだよね……? 地区大会って勝つの当たり前なんじゃ……」

 失礼にならないように、丁寧に言葉を選んだ。佐久早くんは気を悪くした様子もなく、ただただ拗ねたような目で私を見た。

「悪いか」

 別に悪くはない。普通、「付き合って」とお願いするなら大事な場面にするというだけで。佐久早くんの慎重さが垣間見えたようで、私はまた一つ佐久早くんを知った気になる。

「一回好きだとか言っておいてお前を待たせるのは悪いだろ」

 一瞬、はたと止まる。今の時点で告白をしたようなものなのに、春高が終わる頃には冬になっているということだろう。しかし今、佐久早くんは好きと言ったか。

「言ってないよ!?」

 佐久早くんは告白したつもりだろうが、その実大事なものを省略しているのだ。思わず前のめりになると、佐久早くんは手で襟の辺りを弄った。

「勝ったら言う」

 それは、地区大会に勝ったらでいいのだろうか。付き合うのは大事な場面でと思っていたが、早く佐久早くんの気持ちを聞けるなら悪くない。私は照れや興奮の嵐に苛まれ、「頑張ってね」と言うので精一杯だった。