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 教室で本を読んでいる白布にねえねえ、と声をかける。すると白布は本から顔を上げる。視線をそのままに「何」と吐かれていた時よりはだいぶ扱いが良くなったと思う。私はできるだけ可愛らしい表情をして、白布を覗き込んだ。

「球技大会バレーにしたから教えてくれない?」

 白布は目を閉じ、ため息をつく。少々わざとらしいような動作が白布の呆れを教えてくれる。それほど馬鹿らしいことは言っていないと思うのだけど、白布にとってはそうではないらしい。白布は手を振りながら話した。

「俺の部活、勉強にかかる時間を考えてみろ。お前が上達するまで何時間必要だと思ってる? 下心があるだけならもっとマシな誘い方考えろ」

 白布には全てお見通しなのだ。私の心にあるのはバレーへの向上心ではなく、白布への下心だということを。大人しくなる私に白布が畳み掛ける。

「お前のことだからバレーそっちのけであわよくば押し倒される展開狙ってたんだろ」
「確かに白布と近付こうとしてたけど、そこまでは考えてないよ……」

 私は視線だけ上げる。確かにお近づきになれたらとは思ったが、何も性行為まで求めていない。暗に変態だと言われたとでも思ったのか、白布は不満を飲み込んだかのような表情をした。ここでまた罵られるか、と思った時、白布はふいとそっぽを向いて口を開く。

「球技大会にバレーを選んだことだけは褒めてやる」

 それは、バレーに身を捧げる白布から少しくらいは認められていると思っていいのだろうか。バレーを教える話は了承されていないのに私は手放しで喜んだ。そんな私を、白布は鬱陶しそうに見ていた。