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 流石に無職のボーダー隊員というわけにはいかず、ヒュースは三門の高校に編入することになった。三門の高校というのがまた特殊で、ヒュースが編入する年にオリエンテーション合宿をしているのだ。通常入学時に行なっているらしいのだが、大規模侵攻で思うように場所を確保できなかったこともあり、この時期に実施するらしい。懸念点と言えばヒュースの身元がバレないかである。何か困ったらカナダと言うように言い聞かせ、合宿の準備を進める。当のヒュースはと言えば、そんなことは些細なことだとでも言いたげに悠々と着替えを詰めていた。

「オレの国では初めての旅で同衾することになっている」

 アフトクラトルは近界ということもあり、文化が違うのだろう。結婚まで性行為には及ばず、ハネムーンで初夜を迎えるというところだろうか。頭の固いヒュースのことだから、そのしきたりを厳守していそうだ。

「オリエンテーション合宿でそんなことしたら不純異性交遊だよ」

 私は照れを隠すようにタオルやら何やらを詰める。何もこれはヒュースだけの話ではないのだ。ヒュースと付き合っていて、同じくオリエンテーション合宿に行く私も当事者と言える。今まで手を出してこなかったのはそういうことだったのか。それにしても、クラスみんなで行くオリエンテーション合宿をハネムーンとみなすのはいささか抵抗がある。

「不純異性交遊?」
「結婚もしてない、未成年の若者がいやらしいことをすること」

 ハネムーンまで行為に及ばないのだ。アフトクラトルでも貞操観念はしっかりしているのだろう。ヒュースは少し考え込んだ後、真面目な顔を上げた。

「では今すぐ結婚しろ」
「そういう話じゃない!」

 この男、何としてもオリエンテーション合宿で行為に及ぶつもりだ。周りに誰がいてもいいと言うのか。ヒュースのそういった所に、私は振り回されている。