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 私達の寝室には所謂イエスノー枕がある。結婚する際、「やっぱこれだろ」と京治の友達が寄越したのだ。派手な色をした枕はベッドの隅に鎮座している。今の表面は、「イエス」だった。

「俺は断固としてイエスノー枕を認めません」

 ダイニングテーブルに腰掛け、神妙な面持ちで京治が切り出す。こうしていると重大な話をしているみたいだ。私にとっては重大なのだけど、中身は単なる夜のお誘いである。

「こっちから誘って断られたら気まずいじゃん!」

 私は頭を抱えて叫んだ。同棲経験はあるが、京治と一緒に住むのは初めてだ。今日どうか、と言って仕事で忙しいからと断られたらたまったものではない。特に京治は大きなクマを作ってでも欲する日があり、読みづらいのだ。

「俺はたびたびその空気を味わってます」

 京治の言葉に私は何も言えなくなる。京治の誘いを断ることは、たまにあった。年下の京治に恥をかかせるようで申し訳ないと思いつつ、自分の体力には嘘をつけないのだ。

「コミュニケーションって大事だと思うんですよ」

 京治はテーブルの上に出した手を揉んだ。綺麗に整えられた爪が見え隠れする。行為をするとなれば、あの指が私の中に入るのだ。

「お誘いも一種のコミュニケーションなわけじゃないですか。そういうの、俺はちゃんと顔を見ながらしたい」

 なんとも真面目な京治らしかった。私は諦めて顔を上げる。京治は結構真剣な顔をしていた。

「ラインは?」
「ダメ。俺に直接言って」

 命令のような、おねだりするような。京治のたまのタメ口に私は弱い。とりあえず今日は枕を使うのをやめ、京治にくっついてみるところから始めてみよう。結局私は京治に言われるがままなのだ。息をついた私を見て、京治は前傾していた体を引いた。