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 迅さんが告白されていた。私が覗き見していたというわけではなく、C級の女の子が人の通る場所で告白をしていただけなのだ。迅さんは相手の話を最後まで聞き終えた後、「ごめんね」と言った。その言葉で全てを察したのか、C級の女の子は走り去る。正直今迅さんに近付くのは気まずいが、既に目が合ってしまった。私は迅さんの隣へと並んだ。

「付き合わないんですか?」
「おれのこと好きな子って大抵いい子じゃないよ」

 その言葉には少しの自嘲も含まれているように感じた。迅さんの性格が悪いとは思わないけど、恐らくはサイドエフェクトが関係しているのだろう。迅さんは先程まで告白を受けていたとは思えないほど落ち着いた表情で歩いている。

「じゃあ迅さんは彼女作らないんですか?」
「うーん、彼女は欲しいかも」

 そういう俗らしいところを見ると、私は少し安堵する。迅さんは全知全能の神様ではなかったのだと。人並みに異性への興味もあるのだ。

「全然おれのこと好きじゃない子と付き合えばいいのかな」

 迅さんは顎に手を当てて天井を仰いだ。私は眉をひそめて迅さんの方を見る。

「私のこと言ってます?」
「あ、今おれのことフった?」
「付き合う話じゃないんですか、これ」

 私が立候補するということは迅さんを好きではないということだ。迅さんにとってはフラれていると感じたらしいのだが、そもそも私は告白など受けていない。迅さんだって本当に好きな相手にこのような話はできないだろう。

 付き合う相手を探す、という話だったはずだけれど、迅さんは笑顔を浮かべてひらひらと手を振った。

「フラれちゃったから、またね」

 こうして誰の手もかわしてゆく。そういうミステリアスなところに惹かれる女の子もいるのだろうと思った。まあ、可哀想なことだ。私は迅さんの背中から視線を逸らした。